(出典:精神医学の基礎知識 キャリアカレッジジャパン)
【心 身 症】
心身症とは、心理・社会的因子が、発症要因となる身体疾患状態をいいます。神経症と似ていますが、心身症は身体症状が主体であり、神経症では精神症状が主体であることが特徴です。簡単に言うと、精神的ストレスから生じる身体的変化のことです。
症状としては、頭痛が多く訴えられますが、接触障害、不眠症、円形脱毛症が心身症として、医療現場では認知されているようです。広義で言えば、気管支喘息、狭心症・心筋梗塞、十二指腸潰瘍、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、更年期障害なども、心身症として捉えられています。
心身症に強い影響を与えるのはストレスです。ストレスは、人間の自律神経・免疫機能に変調をきたします。「たかがストレス・・・」と侮るのではなく、ストレスが加わることによって、体に変調をきたしてしまうのです。
【人格障害】
人格障害とは、行動の不適応状態が顕著で、思春期前後の成人期に、多く見られます。一見性格の偏りにも見えますが、その内容にはある傾向があり、原因は遺伝と環境の相互作用の結果であるとされています。
人格障害は、様々な種類がありますが、@妄想性人格障害 A統合失調質人格障害 B反社会性人格障害 C境界性人格障害 D自己愛性人格障害の5つに大きく分類されます。
【@妄想性人格障害】
妄想性人格障害の特徴は、人を信用せず、挫折体験とか他人から受けた拒絶に過度に反応します。自分の権利を必要以上に主張し、過度に自尊心が高く嫉妬深いのが特徴です。他者から騙されたと感じると、落ち込んでくよくよ考えたり、時には攻撃的な行動に出る場合もあります。
【A統合失調質人格障害】
統合失調質人格障害の特徴は、他人との感情的接触を避け、孤立的・空想的・内向的な性格傾向を示すことです。感情表現に乏しく温かみや優しさが感じられず、他人の賞賛や批判に非常に敏感であることが特徴的です。
【B反社会性人格障害】
反社会性人格傷害の特徴は、社会的義務・ルールを無視して、他人を思いやることをしません。激しい攻撃性を示し、冷淡な無関心を示します。その行動は一般的社会通念からは逸脱しているものであり、強制しにくいのが特徴的です。他人を責め、行動異常についてもっともらしい言い訳を述べ、逃れようとする傾向が見られます。
【C境界性人格障害】
境界性人格障害の特徴は、感情が不安定で、不安、怒り、焦り、抑鬱などが見られます。慢性的な空虚感があり、衝動的な浪費、自傷行為が見られ、自己の目的のために、他人を利用したりします。孤独に耐えられず、常に誰かを引き付けておこうとする傾向も見られます。時には、自傷行為などを用いて他者の関心を引こうとするため、周りの人を巻き込んでしまいます。
【薬物依存・アルコール依存】
【@薬物依存】
薬物依存状態になるまでには、クライエントの性格的問題、その人にとって依存しやすい薬物、そして環境、の相互作用があります。どの薬物が選ばれるかは、その人個人の性格傾向と、環境によって左右され、それによって依存の型が決まってきます。
薬物依存状態に陥りやすい人格特性としては、依存的、非社会的、情緒不安定、意志薄弱などの傾向が見られます。自己顕示的な傾向は強い のですが、孤立的な反面も持っており、内省しにくい性格の持ち主であることが多いのが特徴です。
環境要因的な視点からは、家庭で対人関係に問題を抱えている場合が多く見られ、両親のいずれかを欠損した家族形態で生育されている場合に多くみられます。
薬物依存の離脱には、家庭環境が深く関係しており、妻帯者は単身者よりも予後(病後の経過)が良いとされています。依存状態から抜け出すのは非常に大変な作業です。インターネットなどで簡単に薬物が入手できる時代であるため、問題が多様化してきています。
【Aアルコール依存】
アルコール依存は、アルコールの使用が他の何よりも優先されるような精神的、身体的な現象からなる依存が特徴的で、中心となるのはアルコール摂取への強い強迫的な欲求です。
飲酒について自己制御できない自覚がありますが、問題なのは、飲酒を中断すると現れてくる離脱症状(脱力感・不安・不眠・痙攣)です。この離脱症状が出てくると、この症状を軽減するためにまた飲酒を繰り返してしまいます。
治療には、アルコールを完全に絶つことが最も有効です。まずは、自分自身で断酒の意思を持つこと。そして断酒を継続することが非常に重要です。自力で断酒を続けることが困難である場合には、匿名断酒会(AA)への参加を働きかけることもあります。
【児童期・青年期に見られる障害】
【@広汎性発達障害】
対人接触や言語交流、興味や活動に持続的な障害が認められ、幼児期、多くは5歳までには異常が明らかになってきます。
(小児自閉症)
厳密な診断基準によれば、1,000人あたり約2人位の発症率で、男女比は3〜4:1と、男児に多いのが特徴です。症状としては・・・
コミュニケーションの障害: 聴覚や触覚刺激などに対する反応性の異常、言語理解と発達に障害が認められます。質問されると、それをおうむ返しにしゃべったり(反響言語)、意思を上手く伝えることが出来ないこともあります。
知的能力: 機械的暗記などに優れている場合もありますが、自分の欲求を外界に適合させたり、周囲の状況を正しく認識することが上手くできません。知的能力はきわめて劣るものから、正常、あるいは優秀なものまで幅広く、知的レベルの高いものを高機能自閉症といいます。
常同行動: 自閉症児の行動の特徴として、同じことを絶えず繰り返す常同行動がよく見られます。これを止めさせようとすると、かんしゃくを起こして抵抗したりします。絵画や図工など、何かに興味を示すとそればかりを反復して行います。部屋の中の家具とか電話番号などに異常な関心を示し、驚くほどの記憶力を示すこともあります。
対人関係(社会性)の障害: コミュニケーションの障害の影響は、対人関係にも大きな影響を与えます。自閉症児は、自分の感情を上手に表現することが出来ないため、他者と感情的な交流が困難です。協調性は欠如し、友人関係も作りにくく、人の気持ちを理解することや暗黙のルールを理解することなど、場にあった適切な反応ができません。孤立し、一人遊びをしていることが多いのも特徴です。
小児自閉症の原因は、はじめは親の不適切な養育が影響する心因性の情緒障害であると考えられていましたが、最近では脳の機能障害、または成熟の遅れが主要な原因と考えられる「発達障害」として、大きく理解が変わってきました。
(アスペルガー障害)
自閉症の諸特徴を備えてはいますが、言葉の遅れがほとんど見られず、発達水準の高い自閉症とも考えられています。今のところ原因は不明で、自閉的精神病質とも呼ばれることがあります。
小学校低学年まではわかりにくいのですが、集団の暗黙のルールなどは理解することができず、集団行動をとりにくいのが特徴です。思春期など、ある程度成長した後、対人関係面で問題が生じ、アスペルガー症候群と診断されることがあります。
【A学習障害】
学習障害について、文部科学省(当時の文部省)は「基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す、様々な障害を指すものである」と定義しております(1995)。
現在のところ、中枢神経に何らかの機能障害があると推定されていますが、はっきりとした原因はまだ不明です。
学習障害は、ひらがなの覚えが遅く、読める部分だけの拾い読みや間違いが多いことなどから、明らかになることがあります。そのほかには、ひらがなを裏返しに書いたり、漢字の書き方をいつまでも間違い続け、なかなか覚えることができなかったりします。
学習障害の問題点は、学習の遅れが周囲に十分理解されず、周りの大人からの叱責、友人からのいじめやからかいの的になりやすいことです。このため、学習障害を抱えた子どもは、ますます意欲を失い劣等感に苦しむことになり、不登校や暴力行為を示すことがあります。
重要なのは、学習障害は「発達性の障害」であるということです。周りからは遅れるものの、徐々に遅れを取り戻し、遅れた力を獲得していくことが知られています。
【B多動性障害】
幼児期から多動と注意散漫が目立つ状態のことを言います。ICD−10(国際診断基準)では、多動性障害。DSM-W-TR(アメリカ精神医学会で定義されている精神疾患の分類と判断マニュアルの基準)では、注意欠陥多動性障害(ADHD)と呼ばれ、不注意、多動性、衝動性が主症状です。
原因は、脳の微細な構造的、機能的、発達的異常などの生物学的要因と環境要因の両方が関与している可能性があるとされています。
乳幼児の頃から動きが激しく、歩けるようになるととにかく落ち着きがなく動き回ります。小学校に入ると、集団生活になじみにくく、注意をされても席を立ち歩いたり、手をぶらぶら動かし、絶えずそわそわしています。特に低学年の頃は、授業中にもかかわらず机の間を走り回ったり、教室から飛び出すこともあります。
高学年になってくると、少しずつ落ち着いて机にとどまるようになりますが、絶えず誰かに話しかけたり、いたずらをしようとしたりします。
【Cチック障害】
チックとは、突発的で反復的、常同的で運動あるいは発声を呈するものです。成人よりも児童に多く見られ、女児よりも男児に多いのが特徴です。
家庭や学校における心理的緊張やストレスが、チック症を引き起こす準備状態を作ったり、チック症を著しく増強したりしますが、単純な心因性障害ではなく、遺伝的要因と環境要因の両者が関与していると考えられています。症状としては、次のように分類されます。
単純運動チック: 肩をすくめる、まばたき、急に首をひねる
複雑運動チック: 顔の表情を変える、跳ねる、触る
単純音声チック: 咳をする、鼻を鳴らす
複雑音声チック; 状況に合わない単語を繰り返す、汚言症
単純チックであれば、チック症状を消去させようとするよりも、子どもの環境的なストレスの軽減を図ることが重要です。
【D児童虐待】
児童虐待とは、保護者により子どもに加えられる身体的、心理的、性的な虐待のことを言います。主な虐待は次の4つです。
1.身体的虐待:子どもに対する身体的暴力が主。打撲傷、骨折、火傷などが見られる。
2.心理的虐待:子どもに対して、無視をしたり、強迫したり、避難をする。
3.性的虐待 :子どもへの性的行為や、性的目的のために子どもを使うなど。
4.ネグレクト :養育の拒否。学校に通わせない。衣食住の世話をしない。
虐待された子どもに見られる症状としては、子ども時期には、発達の遅れや新旧の外傷が見られるほか、過食や多飲などの問題行動、情緒や言語発達の遅れをはじめとする神経症状が認められることがあります。特に、感情や衝動のコントロールが困難になったり、自己評価が低く、自分や他者を傷つけやすいことなどが問題となりやすく、外傷後ストレス障害、多動性障害などを呈し易くなります。
虐待をしている親は、自分の行為を虐待ではなく”しつけである”と訴えることがあり、子どもも親の行動を警戒して事実を話せないことが多くあります。子どもが幼ければ幼いほど、虐待を”親の問題”ではなく、”自分が悪い”、自分が駄目だから”と考える子どもがいます。このような子どもは、親の暴力は自分の責任であると考え、親に好かれる良い子になろうとします。それと同時に親に対する恐怖心を強く抱き、孤立無援感、無力感と共に、親以外の人間全般に対しても不信感を抱いていることが多くあります。
【E接触障害】
接触障害でもっとも有名なのが(1)神経性無食欲症と(2)神経性大食症です。どちらも思春期から成人期早期を中心に発症します。生物的・心理的・社会的・文化的要因が強い影響を与える病態で、近年増加傾向が著しく、最近では神経性大食症の増加が多く見られます。
(1)神経性無食欲症
神経性無食欲症の主症状は、自発的で極端な接触制限と、体重減少です。女性は男性の10倍から20倍の発症率を占めています。体重は標準体重から15%以上の減少があり、減少した体重を維持したいがために、食事を拒否し、無月経も良く見られます。
特徴としては、自分が痩せすぎていることを認めようとせず、もっと痩せたいという“やせ願望”を強く抱いていることです。食後、自ら嘔吐したり、下剤や利尿薬を飲んで痩せようとする傾向が見られます。
(2)神経性大食症
神経性大食症は、短時間に大量の食べ物を食べる無茶食いが見られ、自分の意志では止められない状況に陥ります。肥満恐怖や痩せ願望が見られ、過食後に自ら嘔吐したり、下剤の乱用などが見られます。
神経性大食症の場合は、自己制御の挫折感が根底にあるため、抑鬱気分と自己嫌悪に陥りやすい状態になります。
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